扉を開けた途端、自分のものではない微かな芳香を感じる。
見れば、玄関にはその香りの主のものであろう、見馴れぬ靴があって。
きちんと揃えられているそれを見ながら、ビリーはため息を落とす。

廊下をわざと音を立てて歩き、やがてリビングに通じるドアを開ければ。

「ニール・・・」

予想通りの姿を見つけてその名前を呼べば、白磁の肌に薄茶色の髪、翡翠の瞳をした男はニッコリと笑う。

「よぉ。久し振り」

家主の留守中に上がり込んだ事に悪びれる様子も見せず、ソファの上に座ったままの寛いだ格好で器用にウインクまでして。

ビリーはもう一度小さくため息をついた。
しかし、すぐにその顔にいつもの笑みを貼り付けて尋ねる。

「久し振りだね、本当に。何ヶ月ぶりかな?」

「え〜・・・2ヶ月ぶりかな、いや、3ヶ月ぶり?」

「4ヵ月だよ」

正確には4ヵ月と21日だけど・・・と、心の中で呟く。
無駄に良い記憶力は、こういう時に自分をうんざりとさせる。

上着を脱いでハンガーにかけると、ニールの前に立つ。
じっと見つめれば、細められた翡翠の瞳が面白そうにこちらに向けられて。

「仕事は終わったのかい?例のホラ、小説とやらは」

自分には職業をノンフィクション作家だと名乗っているので、そう聞いてやる。

「ん〜、まぁ、それなりに」

答えにはなっていないが、それ以上の追求はしない。
元より、彼が作家などとは露とも信じていないのだ。

「ああ、そう、それなりにね」

「ビリーこそ、相変わらずオモチャ研究かい」

からかうように言われる。
自分の職業はオモチャ会社の研究職だと言っているので、それを揶揄されるのはいつもの事なのだが。

「まぁ、ぼちぼちね」

「ふぅん、ぼちぼち・・・ね」

互いに一つの真実もない。
そして、二人共にそれに気付いている。

――どうしようもない関係だな。

ビリーは心の中で笑う。
ニールと自分、二人の間に真実などあるのだろうか。

ソファに座ったままの彼を見れば、変わらず笑みを浮かべている。

鍛え上げられた体躯に、引き締まった頬。
それだけを見れば、随分と男性的なのに。
何故かそこには引き寄せられるような魅力がある。
その微笑一つで、誰でも虜にしてしまえると思える程の。

陽気な笑みを崩さないままのニールに近寄ると、頬に手を当てる。
冷たい肌は、彼がほんの少し前まで外に居たことを教えていて。

「待っていたのかい?」

恐らく。
自分が帰ってきた姿を見てから、合鍵を使ったのだろう。
軟派そうに見えて、そういう部分では本当に律儀な男なのだ。

「君のそういう所が可愛くて仕方ないよ」

本心から言うと、そのまま、そっと口付けを落とした。
ちゅ、とただ触れるだけのキス。

「それだけ?」

益々面白そうにニールが言えば。
ヤレヤレともう一度腰を折る。
唇が重なり合った途端、ニールの腕が首に回されて。

「4ヵ月と21日分、抱き合おうぜ、ビリー」

吐息が触れ合うほど近くで、甘く強請る言葉に目を見張る。

――覚えてるんじゃないか。

どれだけ離れていたのか。
指折り数えていたのは自分だけではないらしい。

「無論だよ」

ソファに乗り上げてニールの肩を掴むと、そのまま深く口付けた。





【あとがき】

2007年12月2日

有り得ない、ビリロクでした・・・!

子ロックを見てからというもの、「ロク受ってありだな・・・」と勝手に盛り上がってしまいまして><
でも、飴屋的に他のマイスター×ロックオンはイマイチ萌えが足りず。
ならばと選んだのがカタギリ氏でした^^;

この二人だったら、適当〜に大人の関係を楽しむんじゃないかと。
勿論、互いの素性は一切知らないままで。
まぁ、それにしても「ノンフィクション作家」と「オモチャ会社勤務」は有り得ないですけど(爆)。

今回は、ロックオンをニールにしました。
最新作を見て、どうしても使いたかったので^^;

しかし、ニールでキャンディキャンディを思い出す飴屋は、やっぱり相当歳ですね・・・あはは(乾笑)。




【あとがきのあとがき】

この頃からなんですね、ロク受けに嵌り出したのは・・・。

ロクティエをメインにしている以上、ロク受けは茨道。
とは言え、これを書いていたからこそ出会うことができた大切なお友達も沢山いるので、飴屋にとってはとても重要な作品だったりします。

恐らくビリロクというCPで今後新たなお話を書くことはないと思いますが、ユニオン×ニールはまだまだ熱いです・・・!