深夜、シュン・・・と小さな音を立てて扉が開く。
光源は床近くの非常灯のみ。
しかし、人影は躊躇うことなく歩を進める。
やがて寝台に目的の人物を見つけると、その脇に静かに膝をついた。
「ロックオン」
小さく囁く。
「・・・・・・何だ」
眠っていたわけではないのだろう、はっきりとした声が返ってくる。
「話・・・いいかな?」
その声に、ゆっくりとロックオンは身体を起こす。
手を伸ばして枕元のスイッチに翳すと、足元を照らす為の照明が蒼く床に広がった。
「アレルヤか・・・何の用だ」
不機嫌な様子を隠そうともせず、ロックオンは低く問う。
「ロックオン」
震える声で名前を呼ぶと、アレルヤは身体を捩ってロックオンにしがみついた。
形振りなど構っていられないとでもいうように、ただひたすらに。
「ロックオン、君が好きなんだ・・・他の人に・・・取られたくない」
顔を埋め、搾り出すように言い募る。
しかし、ロックオンの表情には何の変化もない。
むしろその相貌には侮蔑の色すら浮かんでいる。
「うるせぇな。俺が誰とどうしようがお前には関係ねぇよ。大体何だ、何でお前が出てくる?」
ぴったりとしがみついた身体が大きく揺れる。
「俺はお前なんか何とも思っちゃいない」
「ロック・・・・・・」
「ハレルヤ出せよ。俺は素直なあいつの方が、嘘吐きなお前より何倍も好きだぜ」
強張る身体を引き剥すと、ロックオンは冷たく言い放った。
小刻みに震えるアレルヤを、心底嫌そうに見つめながら。
「お前、陰気なんだよな。ホント、見てるだけで気が滅入る。一度や二度抱かれたからって、俺がお前を好きだなんて誤解、してくれるなよ?怖気がするぜ」
嘲るように笑うロックオンに、それでもアレルヤの真摯な眼差しは変わらない。
「君がどう思おうと構わない。でも・・・僕は君が好きなんだ。それは・・・嘘なんかじゃない」
少しでも分かって欲しい。
例え自分を見てくれなくても。
そこにある想いが本当のものだと、そう信じて欲しい。
ひたすらそれだけを願って、アレルヤは言葉を紡ぐ。
しかし、そんなアレルヤを見つめるロックオンの瞳には、何の感情も浮かんではいない。
「いい加減にしろ。てめぇ、部屋の暗証コード勝手に解除しやがって。ふざけるなよ」
「・・・ごめん・・・でも、こうでもしなきゃロックと二人きりで話せなかったから・・・」
「そういうのが嫌だって言ってんだよ、分かんねぇ?うざったい奴」
吐き出される言葉は、冷たい棘のようだった。
けれど、どんなに酷い言葉を投げかけられても、アレルヤがそこから動くことはない。
その態度に、ロックオンはうんざりとため息をついた。
「何だ、抱かれるまで帰らないつもりか?」
その言葉に、アレルヤは小さく肩を揺らす。
「・・・それならそれでいいさ。最近刹那とはしてねぇからな。吐き出すだけならお前で十分だ」
言うなり、腕を引く。
そのまま寝台に倒れこむアレルヤに、強引に口付けた。
そこには、相手への優しさも思いやりもない。
あるのは・・・自分の欲望を満たすためだけの前触れのみ。
唇を割り、ぬめった感触が侵入してくる。
アレルヤは絶望的な気持ちでそれを受け入れた。
どんな風に思われても構わない。
誰かの身代わりでも。
けれど、自分の想いを信じてくれようともしない、その事実がアレルヤにこの上もない悲しみを与える。
しかし。
喉の奥まで責められ、きつく舌を吸われる。
唾液を流し込まれ、それを飲み込むまで息をすることも許さない。
その激しさに求められている事を実感すれば、悲しみを凌駕するほどの喜びが、アレルヤの中に育っていく。
「ロックオン・・・!!」
腕を伸ばしてその首にしがみついた。
好き、好き、好き・・・その言葉だけがアレルヤの全てを支配する。
他に何もいらない、一時でもロックオン瞳が自分を見るのなら。
その眼差しで、自分を貫いてくれるなら。
――見るな・・・!
そう叫びたかった。
必死に縋り付いてくるアレルヤの、己に向けられる一途な眼差し。
その瞳に見つめられる度に、恐ろしいほどの焦燥感が湧き上がってくる。
何もかもを見透かされるような、そんな気がして堪らなかった。
哀れなまでの醜態を晒しているのは、一体どちらなのだろう?
涙ながらに愛を乞うアレルヤか。
それともその瞳に恐れを成す自分か。
組み敷いたアレルヤの中を、思いやりの欠片も見せずに突き上げながら、ロックオンは目を閉じた。
ベッドの軋む音にだけ集中すれば、余計な事など考えずに済む。
「ロック・・・!あうっ・・・・っ!・・・い・・・あァ・・・ッッ!!ロックオン・・・・・・!!」
強引な挿入と激しい抽挿。
それでも、アレルヤは感極まった声を上げる。
「・・・・・・くそ・・・・・・ッ!」
その声すら、自分を追い詰めるものにしか聞こえない。
――やめろ、やめろ、やめろ・・・!!!
心の中で叫び続ける。
その声が聞こえたのだろうか。
快感の渦に巻き込まれながらも、一筋の理性を失わないアレルヤの瞳がロックオンを捉え、その手がロックオンの頬に当てられる。
冷たい指先。
熱い身体とは正反対の。
「・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・!!」
それを振り払うように一層無慈悲に突き進むと、あられもない水音が室内に響いた。
奥へ、更に奥へと腰を入れれば、アレルヤの腕が力なくベッドへと滑り落ちていく。
ロックオンはその腕を押さえつけた。
両腕でのしかかり、それ以上は動けないように拘束する。
そのままひたすらに、アレルヤの中を蹂躙し続ける。
未だその熱は解放できないと、激しく腰を打ち付けた。
「ロ・・・ッ・・・・・・ああ・・・・・・・ッ・・・・・・・ごめんなさ・・・・・・・・・」
その言葉に、ロックオンは閉じていた瞳を見開いていた。
「ロック・・・ごめん・・・ごめんなさ・・・・・・・・・・」
力任せに押さえつけていたロックオンの腕が緩む。
見れば、蝶の標本のように張り付けられたアレルヤの瞳には、欲望のせいではない涙が溢れている。
はらはらと、零れ落ちていく透明な雫。
「・・・・・・アレ・・・ルヤ・・・・・・・・・」
拘束を解かれたアレルヤの手が、再びゆっくりと持ち上がり、撫でるようにロックオンの頬に当てられる。
「僕は・・・・・・こんな風にしか君を愛せなくて・・・・・・ごめん・・・ロックオン、赦して」
「どうして・・・・・・」
――そんな事を言うんだ、ふざけるな!!
そう叫んだつもりだったのに、ロックオンの唇からはそれ以上の言葉は紡がれなかった。
痛みを堪えるかのように眉を寄せ、じっとアレルヤを見つめる。
見上げる瞳。
自分のように侵されていない、汚れていないその瞳。
透明な液体が次から次へと溢れると、その目は一層澄んだものに見えた。
――ああ・・・・・・・。
ロックオンの心に痛みが走る。
そんな目で見ないでくれ、と叫んで逃げ出してしまいたくなる。
自分の胸をかきむしり、もう嫌だと声を上げて。
「ロックオンは・・・悪くない・・・・・・僕・・・僕が・・・・・・君を追い詰めて・・・・・・」
「・・・・・・・違う」
喉奥から、掠れた声が押し出される。
「違う、違う・・・・・・・違うっっ・・・!!」
自分と同じ、戦場で戦う為の、人殺しの為の心と身体。
なのに何故?
何故アレルヤと自分はこんなに違う。
アレルヤの瞳は、ちっとも汚れていない。
この腕も、身体も、何一つ侵されてはいない。
汚いのは自分なのだ。
侵されているのは、自分。
ロックオンは細く長いため息を吐き出す。
その身体からは徐々に力が抜けていく。
攻撃する為の、壊す為だけの強さは脆く剥がれ落ち、何処か空虚な翡翠の瞳だけがそこに残った。
「俺は・・・・・・逃げてた。自分の存在・・・ソレスタルビーイングの中で与えられる役割。全て割り切っていたはずなのに。自ら望んだはずだったのに」
小さな笑いが吐き出される。
まるで己自身を嘲笑うかのように。
「何時の間にかそれが苦痛で仕方なくなってた。愚かだろう?全ては自分の選択の結果でしかないというのに。俺はどこかで誰かのせいにしたがってた」
視線を落とせば、そこには全てを受け入れ続けているアレルヤの瞳がある。
それは、何もかもを自分で受け止めると決めた、強い眼差しだった。
「汚れた自分の心を抑えきれずに、俺は全てをお前にぶつけて・・・馬鹿だろう、本当に。俺は馬鹿だ」
嘲笑は徐々に大きくなっていく。
アレルヤの指が頬を伝い、やがてロックオンの唇に辿り着いた。
「ロックオン、君は・・・自分で思ってるほど弱い男じゃない。そして、君を追い詰めたのは僕のこの想いだって・・・僕は知ってる」
アレルヤは静かに目を伏せる。
「だから、全部僕のせいなんだよ、ロック」
その慈母のような眼差しを向けられた瞬間、ロックオンは言葉を失った。
「アレルヤ・・・・・・」
全部自分のせいなのだから、己を責めることはないのだ、と。
口汚い言葉を浴びせられ、無情なまでに組み敷かれ、暴力的に抱かれても尚。
君は悪くない、と。
「アレルヤ・・・すまない」
すんなりと出てきた言葉。
もうずっと、罵ることしかなかった唇が滑らかに動く。
「俺は・・・俺は・・・・・・」
アレルヤを抱き締める。
縋るように、救いを求めるように。
「僕は君を愛してる・・・本当に、心から。とても抑え切れないほどに」
アレルヤの両腕がロックオンの首に回された。
「だから、君が憂えることなど何もない。君はただ、僕に愛されていてくれればいいんだよ」
その赦しに、ロックオンの身体が再びアレルヤの肢体に沈む。
「あ・・・ッ・・・!!」
「アレルヤ・・・!」
「い・・・ア・・・・・・ッ!ロックオン・・・ッ!!」
ロックオンは丁寧に、そして時に無慈悲にその身を押し進める。
狙いすましたように、アレルヤの感じる部分を抉り。
強く、弱く律動させれば、アレルヤの身体が大きく仰け反った。
それは、ただ吐き出すためだけの律動ではない。
自分の想いを相手に伝える為の・・・・・・。
ロックオンは、ひたすらにアレルヤを抱き締め続けた。
全てを赦される、その喜びに浸りながら。
【あとがき】
2007年11月14日〜19日
黒ロックオン×アレルヤです。
酷いな、兄貴・・・!
というわけで、1頁目で終わっていた話を、無理矢理2頁目に繋げてみました。
ただ黒いだけのロックオンじゃ、あんまりにもあんまりなので(苦笑)。
でも、黒くなくなったらヘタレになっちゃった・・・(;´Д`)
飴屋はロックオンが大好きです。
黒かろうがヘタレだろうが。
でも、やっぱり兄貴なロックが一番ですね。
改めて、そう実感。
この話は、6話を見た時点で書いております。
兄貴の過去も早く知りたいです。
【あとがきのあとがき】
今じゃ絶対に書かないであろう、黒ロックオンです。
アレルヤって、自分に激しい劣等感を持ってると思うんですよね。
そして、自分がシアワセになることに抵抗があると。
なので、虐げられたりすることに、精神的な安定を覚えるんじゃないかな〜と思ってこんな話になったんだと思います。
今は二期直前(2008年9月)なんですけど、絵を見る限りでは随分逞しい感じに。
ロクアレじゃなくてアレロクだね!とか思いました。
色々乗り越えたんじゃないですかね〜。
マリィのことがまだ残ってるケド・・・。