夏の終わりを思わせる陽光が、切り取られた窓から静かに差し込んでいる。
ぼんやりとした光に溢れた店内は、繁華街から外れた場所にあるせいか、ひどく静かだった。
聞こえるのは陶器の触れ合う微かな音と、時折湯気を立てるエスプレッソマシーンの音だけ。
客の姿は少なく、閑散とした雰囲気だ。
ロックオンは周囲に人目がない事を確認すると、目の前の端整な顔に見入る。
光に反射する菫色の髪。
白皙の肌に、完璧な黄金律を保った相貌。
瞳はスピネルのように紅く、くっきりとした眦が見る人間に強い印象を与える。
小さく開かれた唇は珊瑚色で、時折除く歯並びまでもが美しい。
息を呑むような美貌とは、こういうことを言うのだろう。
「なんですか、さっきからじろじろと」
視線に気付いたのか、ティエリアが眉を寄せる。
「あ?ああ、いや、なんでも」
慌てて首を振る。
まさか、特上の美人とその飲み物のギャップに驚いていました、などと言えるわけがない。
「……それ、美味い?」
それでも一言言わずにはいられなくて、視線で目の前のグラスを指し示す。
「別に。どうということもありませんけど」
「だって美味くなきゃ飲まないだろ、立て続けに二杯も」
ここは通りすがりの店だったが、入ってまだ十分も経っていない。
その間に一杯目のグラスは空になり、今目の前にあるのは運ばれてきたばかりの二杯目だ。
「喉が乾いてるんです」
表情も変えずに端然と言い返すと、ティエリアはロックオンの視線など無視して二杯目のグラスに手を伸ばした。
スプーンを差し入れ、乗っていたアイスクリームを丁寧に食べる。
半分ほど食べ終わると、それを液体に沈めて緑色を乳白色で濁す。
一杯目と全く同じ手順だ。
どうやら彼なりにそれを味わう順序があるらしい。
「やっぱ好きなんだよな?クリームソーダ」
「嫌いなものなんて頼みません」
何を下らないことを、とティエリアの目が眇められる。
「でも……ティエリアって甘いもの、好きだったか?」
食べるものに拘りはないし、好き嫌いもなかったように思うが、少なくともティエリアが、自分の前で積極的に甘いものを食べたり飲んだりしていた記憶はない。
ロックオンが訝しげに首を傾げると、ティエリアはその言葉にふ、と息を吐く。
「まぁ、別に甘いものは好きじゃありませんけど」
「ん?けど?」
ちら、とティエリアの視線が上向く。
光を湛えた瞳が一瞬細められ、濡れた唇が小さく動いた。
「え?」
微かな声。
けれどハッキリと聞こえてしまった。
その言葉の意味が脳内に浸透してくるに従って、じわじわとロックオンの耳元が赤くなる。
「そういうこと言うのは、俺の専売特許だと思ってたのに」
ぼそりと呟くと、ティエリアは口の端を上げた。
「僕だってたまには言いますよ。たまには、ね」
微笑するティエリアを前に、ロックオンは降参とばかりに両手を挙げた。
惚れたものが負けなのは、いつの時代でも同じ事だ。
つまり、自分は一生ティエリアには勝てないということだろう。
―この色が好きなんですよ。ソーダに半分だけアイスクリームを溶かした、貴方の瞳の色と同じ、翡翠色。
攪拌させたグラスを指先で辿るティエリアの言葉を思い出して、ロックオンは肩を竦め、けれど嬉しそうに小さく笑った。
【あとがき】
2009年3月24日
このお話は、昨年10月に発行されたロクティエアンソロの為に書き下ろしたものです。
ちょっぴりだけ改稿しましたが、殆どそのままです。
主催者様から提示された字数がかなりキツキツで、文字書きには相当辛かったんですが、ニール×ティエリアの砂を吐くほど甘いお話が書きたい!という事で頑張ってみました(*≧д≦)
いつもはニールが口説く方なんですが、たまにはティエにも男らしい(?)所を見せて欲しいなと。
一途にニールを慕うティエも好きですが、小悪魔風も大好きです。
ティエリアが本気を出したら、ニールなんかタジタジに違いない・・・!
本編は最終回を残すのみとなりましたが、こうして見てみるとオンオフ共に結構な数のロクティエを書いたんだなぁと思います。
ただの主婦である御堂に、ロクティエは沢山の貴重な経験をさせてくれました。
特にニルティエですけれど、ロクティエは私にとって本当に特別なCPです。
本編は終わってしまいますが、これからもロクティエを書いていきたいな〜と改めて思いました。
これからもしつこく頑張ります(・∀・)ゞ