夜空の上には満月。雲はなく、窓から見える景色はとても澄んでいる。
ティエリアは、隣で安らかな寝息を立てている男の横顔を、そっと窺った。
端整な男らしい美貌。引き締まった体躯。
良い夢でも見ているのか、その表情はとても穏やかで、微笑んでいるようにすら見える。
シーツの上で腕を枕代わり眠っているロックオンを見ながら、ティエリアはそっと彼の目元を指先で辿った。
両方とも瞼に覆われているが、利き目である右目の上には大きな傷がある。
抉り取られたように皮膚が引き攣れ、見ているだけで痛々しさを覚えるような酷い傷跡だ。
普段は眼帯で隠されているその部分を、こうして二人で居る時には外してくれるように頼んでいた。
ロックオンは躊躇っていたが、どうしてもと頼み続けると、二人きりの時には外してくれるようになった。
彼は自分を守ってくれた。
射撃手として、もっとも大切な利き目を差し出して。
(ロックオン……貴方は……)
好きだから、守っただけだと彼は言った。
自分も守られているのだから、当然なのだと。
(貴方はいつでも私に欲しいものをくれる)
笑顔も、抱擁も、悦楽も。
言葉も態度も惜しんだりしない。
いつでもロックオンはティエリアに様々なものを与えてくれる。
(私は何もあげられないのに……)
ヴェーダにリンクすることもできない、マイスターとしても人間としても不完全な自分に、一体何があるだろう。
じっと月明かりの寝顔を見つめていると、ふいにロックオンの腕が上がった。
そのままティエリアの首に回り、ぐいと引き寄せられる。
「……っ!」
胸元に頭を押し付けられて、そっと上目に窺ったが、どうやら起きたわけではないらしい。
寝息は健やかに続いていた。
素肌の胸に凭れ掛かりながら、ティエリアは目を閉じた。
どくどくと、規則正しい心音が耳から流れ込んでくる。
力強い、生命の証の音に、ティエリアはゆっくりと身をゆだねた。
「愛してます」
微かな吐息とともに、心からの想いを言葉にする。
彼を愛している。
本当に、心の底から。
言葉にしただけで、じわりと溢れるものを、ティエリアは懸命に飲み込んだ。
全てが終わったら。
この戦いが終わったら。
(私は貴方に……)
全てを打ち明けよう。
この身体にある、全ての秘密を。
そして、もし彼がそれを受け入れてくれたなら。
(もう二度と離れない)
愛しい彼に寄り添って、生きていく。
自分の全てをかけて、彼を守っていくのだ。
「だから……」
もう少しだけ待って欲しい。
戦いが終わる、その時まで。
(どうか、彼をお守りください)
静謐な夜の空気の中で、ティエリアは温かな身体を抱き締めた。
【あとがき】
2008年10月8日
今更ですが、最後の戦いの前のロクティエを(>_<)
とうとう二期が始まって、これからの展開にどきどきしております。
ロクティエどうなるんだ、ロクティエ・・・!
ライルの煙草にやられました。
彼を好きになれそうです。