目の前がグラグラ揺れている。
壁も、床も、自分の手までも。
相伴などしなければ良かったと後悔しても、もう遅い。

身体を巡るアルコールのせいで、心臓の鼓動はいつもよりずっと早く脈打っていた。
こめかみの辺りでドクドクと音がする。
霞む視界に、気分まで悪くなってくるようだった。

「あれ、どした?」

聞き慣れた低音に目を上げれば、ロックオンが立っていた。
何か手に持っているようだったから、夜食でも調達していたのかもしれない。

「顔、赤いぞ・・・っつか、もしかして酒飲んでる?」

顔を覗きこまれて、益々頬に血が上る。
こんなみっともない姿を見られてしまうなんて、とことん運がない。

「すみません、スメラギさんの所に行ったら・・・」

「ああ、そっか。飲まされた?」

「いえ、自分から欲しいと言ったんですけど。ちょっと飲みすぎました」

力なく笑うと、ロックオンがなるほどねと頷いた。

「スメラギ女史はいつも一人で飲んでるからな。相伴する相手がいてつい勧めたんだろうけど。酒に馴れないうちに付き合うと、後々大変だからな。今後は気をつけた方がいいぞ?」

優しく言われて、つきりと胸が痛んだ。

「自分の酒量も知らないくせに・・・・・・駄目ですよね」

自分を嘲笑うかのように口元を歪めるアレルヤに、ロックオンは少しだけ悲しそうに眉を寄せた。

「アレルヤ・・・お前、あんまり自分を責めるなよ?」

ぽんぽん、と頭を撫でられる。
暖かい手と、全てを知ってそれでも尚優しいその人の言葉に。

(この人には何もかも見透かされてるな・・・)

心の中で小さく笑う。
自分の弱さも愚かさも、ロックオンの前では全てが無防備だ。

「送るか?」

ガイドバーを握るアレルヤの手に、ロックオンの手が重なる。

「いえ、大丈夫」

そう断って首を振ったが、途端に眩暈を覚えて膝が折れた。

「おっと・・・、無理すんなって」

すかさずロックオンがアレルヤの体を支える。

「すみません」

「いいって。ほら、掴まれよ。部屋まで送るから」

脇から腕を差し入れられて、殆ど抱えられるように長い廊下を移動した。
服を通しても伝わってくるロックオンの温もりに、意識まで飛んでしまいそうになる。

「なぁ、アレルヤ」

「はい」

すぐ横を伺えば、端整なロックオンの顔があって。
心臓の高鳴りが一際大きくなった。

「俺のこと、呼べよ」

「・・・・・・え?」

「今度何かあったら・・・さ。スメラギ女史じゃなくて、俺のこと、呼べって言ったの」

「ロックオン・・・・・・」

はにかむように笑うロックオンに、今こそ全ての視線を奪われる。

「俺じゃ頼りない?」

「そんなこと・・・!」

「じゃあ、呼んでくれ。どこに居ても、何をしてても、きっと行くから」

力強い言葉に、心の琴線が大きく揺れる。
しかし。

(貴方のその優しさに、強さに、僕はいつでも惹かれていくけれど・・・)

全てを奪う者に、それは赦されないのだと。
安らぎなど与えられはしないのだと。

(僕には何も求める権利はない)

目の前に自室が迫ったことを知ると、そっとその腕を解いた。

「ありがとう、送ってくれて」

何か言いたげに口を開いたロックオンを、それ以上見ていることはできなかった。
すぐに部屋に入ると、扉を閉じて。

「・・・・・・・・・・・・・」

閉ざされた扉の前。
崩れるように座り込んで、アレルヤは天を仰いだ。





【あとがき】

2007年12月26日執筆
2008年3月21日UP

ロクアレです。
何故か分かりませんが、お蔵入りしていたものです・・・。
多分、もっとこう・・・長く書くつもりでしまっておいたんだと思います。
そして、そのまま忘れちゃってたとΣ( ̄□ ̄;)

相変わらず、好きなのに手を伸ばせないアレルヤさん。
自分が幸せになることに違和感を感じてるんじゃないかと、勝手に妄想して書きました。
不幸体質・・・!

ちなみにアレです、例の研究施設を襲撃した後にスメラギさんと飲んだ時の設定になっています。
この頃、まだロックンは元気でした・・・うう!